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2.高周波アナログ回路とは

高周波アナログ回路の概念について簡単に説明します.
 ここで言う高周波とは,マイクロ波帯(300MHz〜30GHz),ミリ波帯(30GHz以上)を中心とした周波数領域を指しています.この周波数領域では,通常の低周波アナログ回路で用いられる回路素子の特性に加え,高周波特有の回路パラメータや現象が無視出来なくなります.例えば,通常の線形部品である抵抗(R),インダクタンス(L),キャパシタンス(C)は,周波数特性をもつことを前提に計算しないと,実際の現象と合わなくなります.図1(a)の純抵抗は,実際にはリード線や誘電体が含まれるので,図1(b)のようにインダクタンスやキャパシタンスをもちます.

インダクタンスやキャパシタンスは充分小さいので低周波では無視できますが,高周波ではインピーダンス(Z)として効いてきます.すなわち,
  Z = R + j(ωL − 1/ωC) ・・・・・・・ 1)
となります.
 さらに,高周波では配線も単なるショートではなく,電力反射源や電流雑音誘導源,高調波源となり,他の信号や装置に影響を与えることがあります.そのため,EMC(electro magnetic compatibility)やEMI(electro magnetic interference)の対策が必要になります.
 また,電流の帰還回路ループ内に他の信号線が存在すると,電磁誘導によるカップリングが発生します.この場合,損失の少ないストリップ・ラインなどを用いて回路のインピーダンス整合を行い,グランドや電源への不要電流の流れ込みを抑える必要があります.一般には,電力反射が最小になる50Ω近傍のインピーダンスに合わせます.
 トランジスタやダイオードなどの非線形能動素子では,入力電流や印加電圧によってインピーダンスが変化するため,できるだけ入出力インピーダンス整合を行って,最大性能が得られるように設計する必要があります.そのため,回路解析の際には,Spiceシミュレータによる時間軸シミュレーションに加え,実測値をもとにした周波数軸シミュレーションが必要となります.図1(c),(d)から,時間軸および周波数軸の波形の違いを理解して下さい.
        
 実際には周波数軸,時間軸および出力電力をそれぞれX軸,Y軸,Z軸とした3次元の出力データに対して,周波数が一定で時間を変化させた場合が図1(c),時間が一定で周波数を変化させた場合が図1(d)であると考えて下さい.
 低周波アナログ回路の設計では集中定数に加わる電流,電圧を中心に解析を行いますが,高周波アナログ回路では分布定数回路に加わる電流,電圧および電力の透過,反射を取り扱います.そのため,高周波アナログ回路の設計では,Sパラメータやスミス・チャートなどの知識が必要となります。