4.ミキサ回路の設計 ●ミキサ回路の原理 ミキサ回路への入力として,次のような2種類の周波数の異なるサイン波を考えます. RF1
= A sin(ωct)
・・・・・・・ 4-a) RF2 = B sin(ωbt)
・・・・・・・ 4-b) この二つの信号を掛け合わせると,次の5)式のようになります. A sin(ωct)×B sin(ωbt) = (1/2)AB cos(ωc − ωb)t − (1/2)AB cos(ωc +ωb)t ・・・・・・・ 5) 5)式をみると,二つの信号の振幅の積に比例したそれぞれの周波数の和と差の信号が出力されることがわかります. ●ミキサ回路の基本構成 ミキサ回路は,3個のトランジスタで構成されます.今回用いる回路を図5に示します.上側と下側のトランジスタには,それぞれ異なった高周波信号を加えます.通常,上側のトランジスタにキャリア信号を,下側のトランジスタに変調信号を入力して掛け合わせ,キャリア信号の振幅,周波数,位相の変調を行います. 復調の場合には,受信信号にローカル信号(キャリア信号に掛け合わせ,元のデータを復元するための信号)を掛け合わせます. |
●デモ版による演習
それではSerenade 7 PC(デモ版)を使って,回路図入力とシミュレーションを体験してみましょう.ただし,今回のデモ版には機能上の制限があるため,作成した回路図をセーブしたり,回路図からネットリストを生成することができません.そのため,最初に回路図の作成を行いますが,その後のシミュレーションのところでは作成していただいた回路図は使いません.デモ用にあらかじめ用意されている回路図を使って,動作を確認します.
それでは,以下の手順に従って,ツールを操作して下さい.なお,実際の設計では高周波アナログ回路シミュレーションを行う前に,トランジスタ・モデルの抽出を行います.この手順についてはp.000の「高周波トランジスタ・モデルの抽出」を参照して下さい.
(1)ツールの起動
Serenade 7 PCをパソコンにインストールして下さい.Serenade
Desktopウィンドウが起動します.
(2)回路図入力画面のオープン
サンプル回路を読み込むための“Choose Exampleウィンドウ”が自動的に開きます.「Balanced Mixer Analysis(MIX)」を選択し,[OK]ボタンを押して下さい(図6). 自動的に図5のミキサ回路(完成した回路図)が表示されます.これをお手本にして,自分の力で回路図を作成して下さい.シンボルの配置場所や入力するパラメータなどがわからなくなった場合には,この完成版の回路図を参照するとよいでしょう.部品のシンボルをダブル・クリックすると,パラメータ入力画面が表示されます.なお,ここで同時に英語版のチュートリアルのウィンドウ(ヘルプ画面)が開きますが,じゃまなので閉じておいて下さい.
それでは,まず,ウィンドウのスクロール・バーの矢印ボタンを押すなどして,回路図入力画面を空白にします(図7).このスペースに順番に回路図シンボルを配置していきます.なお,回路図入力の作業が面倒な方は,(3)〜(8)の作業を飛ばして下さい.
(3)バイポーラ・トランジスタの配置
まず,三つのバイポーラ・トランジスタ(Q1〜Q3)を回路図入力画面に配置しましょう.メニュー・バーの「Parts」→「Active(Nonlinear)」→「Bipolar」を選択し,カーソルを回路図入力画面の上に移動させます.回路図入力画面上に赤色のバイポーラ・トランジスタのシンボルが現れるはずです.適当な箇所でマウスを左クリックすると,シンボルが配置され,パラメータを入力するためのNPN
Bipolarウィンドウが自動的に開きます(図8).
ここでnameとmodの項目を以下のように設定します.
・トランジスタQ1の設定
Name Value
name Q1
af
\
area
|
bf
> 空白のまま
cbc
|
vje
/
:
:
:
:
mod Q2N
:
:
:
:
nameは部品名を,modは使用するトランジスタ・モデルを表しています.Valueが「*req*」になっている欄は,必ず値(または名前)を入力する必要があります.なお,ここでmodの欄に入力した“Q2N”はSerenade 7 PC(デモ版)があらかじめ用意しているバイポーラ・トランジスタのモデルの名前です.入力が終わったら,[OK]ボタンを押して,パラメータ入力のウィンドウを閉じて下さい.
ちなみに上記の入力画面のafはフリッカ雑音係数,areaは面積倍率,bfは順方向電流増幅率,cbcはベースとコレクタの間の外部キャパシタンス,vjeはベースとエミッタの間のビルトイン電位を示しています(製品版ではメニュー・バーの「Parts」→「Library」を選択することによって,Sパラメータを考慮した市販トランジスタのライブラリ・モデルを利用することができます).
バイポーラ・トランジスタQ2,Q3についても,同じように配置して下さい.部品のシンボルの向きを変更したい場合には,シンボルの上にカーソルを置いて左クリックし(シンボルが赤色に変わる),次に右クリックして下さい.Rotateを選ぶとシンボルが90度回転します.Flip
Xを選ぶとシンボルが上下反転し,FlipYを選ぶと左右反転します.
また,部品間を結線する場合には,右クリックして「Draw
Wire」を選び,マウスで配線の起点と終点を指定して下さい.画面を拡大・縮小したいときは,メニュー・バーの「View」→「Zoom
In」,「View」→「Zoom Out」を選択します.
(4)抵抗,コンデンサの配置
次に,抵抗とコンデンサの配置を行います.抵抗を配置する場合は,「Parts」→「Lumped」→「Resistors」を選択します.コンデンサを配置する場合は,「Parts」→「Lumped」→「Capacitors」→「Ideal(Constant G)」を選択して下さい.マウスの左クリックで配置を確定すると“Resistorウィンドウ”または“Capacitor, Gウインドウ”が開きます(図9)
例えば,抵抗R,コンデンサcは以下のように設定します.
・抵抗Rの設定
Name Value
R 100
temp ←
空白のまま
・コンデンサcの設定
Name Value
c 1000PF
Q
\
F
> 空白のまま
temp
/
同じ操作で,すべての抵抗とコンデンサを配置して下さい.さらに,抵抗とコンデンサの間を結線してRCハイパス・フィルタを構成して下さい.
(5)DC電源,GNDの配置
DC電源およびGND(グランド)を配置します.DC電源はメニュー・バーの「Parts」→「Sources」→「DC
Voltage Bias Source」を選択すると出てきます.シンボルを回路図入力画面に配置すると,自動的にVoltage
Biasウィンドウが開きます.以下のように設定して下さい(図10).
・DC電源の設定
Name Value
R
← 空白のまま
V
12
NAME BIAS1
GNDはメニュー・バーの「Parts」→「Ground」を選択すると出てきます.GNDの設定はデフォルトのままで構いません.
(6)トランス,入出力ポートの配置
トランスおよび入出力ポートの配置を行います(図11).ここでは理想ローパス・フィルタとしてトランスを用い,RF-IF(高周波-中間周波)インピーダンス変換を行います.
トランスを配置する場合には,「Parts」→「Lumped」→「Transformers」→「Ideal
3 coils」を選択して下さい.以下のように,1次側および2次側の巻線数比n1,n2を指定します.
・トランスの設定
Name Value
n1 1
n2 1
入出力ポートを配置する場合は,「Parts」→「Schematic
Connectors」→「Microwave Port」を選択して下さい.“Instance name”をきいてくるので,ポート名を入力します.ここでP3(IF)のみ設定が必要です.P3(IF)のシンボルをダブル・クリックして下さい.RF電力がIF側にもれないように,RF信号に対してIF側のインピーダンスを十分に高い値(2000Ω)に設定します.
・入出力ポートP3(IF)の設定
Name Value
term 2000
P1(L0)とP2(RF)については,値を入力する必要はありません.値を入力しなかった場合,自動的に50Ωに設定されます.
実際のミキサ回路を用いたモジュレータの前後段には市販のフィルタ部品を入れます.フィルタ設計の例については,付属のCD-ROMに収録している解説記事を参照して下さい.
(7)RF信号の入力,周波数,高調波(ハーモニック)数の設定
RF信号の入力,周波数,高調波数を設定します.「Parts」→「Sources」→「Sinusoidal
RF Source」を選択し,Sinusoidal RF Sourceウインドウを開きます(図12).設定は以下のとおりです.
・RF電源の設定
Name Value
Freq H1+H0
Amp step
.05 1.5 .05
Option E
ここで,Freq(周波数)の項目“H1+H0”は次の式を表わしています.
(1×f1)+(0×f2)=RF1
・・・・・・・ 6)
また,“step .05 1.5 .05”は,電源電圧の大きさが0.05Vから1.5Vまで,0.05V刻みで変化することを示しています.
(8)制御ブロックの配置
最後に制御ブロックの設定を行います(図13).制御ブロックとしては,周波数制御ブロック(FREQ),非線形出力解析ブロック(NOUT),ライブラリ・ブロック(LIB)の3種類があります.
周波数制御ブロックを配置する場合には,「Parts」→「Control
Blocks」→「Nonlinear Frequency(Mixer)」を選択します.以下のように,高周波信号周波数1「Tone1」,高周波信号周波数2「Tone2」,サイド・バンドの数「nBands」,考慮する高調波の次数「nLO」を指定します(図14).
・周波数制御ブロックの設定
Name Value
Tone1 149.3MHZ
Tone2 160.0MHZ
nBands 1
nLO 4
この設定によって,160MHzのRFキャリア信号と149.3MHzの変調信号をミキシングし,これらの差の周波数10.7MHz(中間周波(IF)信号)で振幅変調された信号の出力を解析できます.
非線形出力解析ブロックを配置するには,「Parts」→「Control
Blocks」→「Nonlinear Output Block」を選択します.ポート3からポート2への変換利得「CG32」,IF信号の雑音係数「NF32」,解析プログラム「(!SC)mod」を指定をします.このプログラムの中で,IF出力信号に対する雑音の割合を計算します.
・非線形出力解析ブロックの設定
Name
Value
CG32<-H1+H1,H0+H1>
DB
NF32<-H1+H1,H0+H1>
DB
(!SC)mod
NULL
ここで,“-H1+H1”は次の式を表します.
(−1×f1)+(1×f2)=f2−f1=IF
・・・・・・・ 7)
また,“H0+H1”は次の式を表します.
(0×f1)
+(1×f2)= RF
・・・・・・・ 8)
ライブラリ・ブロックを配置するには,「Parts」→「Control
Blocks」→「.Lib Data」を選択します.ここでは,使用するトランジスタ・ライブラリのファイル「q2n.ckt」を指定します.
・ライブラリ・ブロックの設定
Name Value
Filename
q2n.ckt
(!SC)mod
NULL
さて,以上のような操作によって,図5と同じ回路図ができあがったでしょうか.回路図入力画面を最初に開いたときに表示された回路図と,自分で作成した回路図を比較してみて下さい.
(9)ネットリストの生成
実際の設計であれば,ここで作成した回路図をセーブし,ネットリスト(回路記述)を生成します.ただし,今回のツールはデモ版のため,セーブもネットリストの生成もできません.製品版で出力したネットリストをリスト1に示します
(同じファイルは付属のCD-ROMにも収録されています).
(10)シミュレーションによる動作確認
それでは,ミキサ回路のシミュレーションを行いましょう.
せっかく回路図を作成したのですが,これは使えないので,デモ用にあらかじめ用意されているデータを呼び出します.メニュー・バーの「File」→「Open」を選択します.(2)と同じように,Choose
Exampleウィンドウの「Balanced
メニュー・バーの「Analysis」→「Analysis」を選択して,NonlinearCircuit
Analysisウインドウを開いて下さい(図15).Analysis ModeをRegularに設定(デフォルトでRegularになっています)した後,[Analyze]ボタンを押します.これで,シミュレーションが始まります.
シミュレーションが終わったら,出力の周波数スペクトラムと出力電圧波形を確認しましょう(図16).メニュー・バーの「Reports」→「Report
Editor」を選択し,レポート・ダイアログを開きます.周波数スペクトルを表示する場合に
・Domain
: Spectral
・Output Type : Rectangular Plot
・Response : V3
(それ以外はデフォルトのまま)
このあと,[Add]ボタンを押し,さらに[Display]ボタンを押せば,周波数スペクトルが表示されます. 変調された出力電圧波形は以下のように設定して表示します.
・Domain
: Time
・Output Type :
Rectangular Plot
・Cycles
: 20
・Response :
V3
・Sweep : 0.5(下の数字のボックス)
(それ以外はデフォルトのまま)
これらの設定の後,[Add]ボタンと[Display]ボタンを押すと,出力電圧波形が表示されます.二つの入力信号の差の周波数(10.7MHz)で,出力信号が変調されていることを確認して下さい.
(11)パラメータの最適化
実際の設計では,この後,CRハイパス・フィルタとバイアス抵抗値のパラメータの最適化を行います.雑音指数(NF:noise
figure)などを改善するための工程です.製品版のSerenade 7 PCには,自動的にパラメータを最適化する機能があります.ただし,今回のデモ版ではこの作業も実行できません(CD-ROMに収録してある「Bipolar増幅回路(BJTAMP)」のデモでは,パラメータ最適化の作業が体験できます.興味のある方は,こちらで試して下さい).
(12)雑音シミュレーション
次は,トランジスタの雑音特性を考慮する雑音シミュレーションを行います.
(10)と同じように,メニュー・バーの「Analysis」→「Analysis」を選択して,Nonlinear
Circuit Analysisウインドウを開きます(図15).AnalysisModeの中の「Small
Signal Mixer」と「Noise」の項目をチェックして下さい
(図17).[Analyze]ボタンを押すと,雑音シミュレーションが実行されます.
雑音シミュレーションが終わったら,メニュー・バーの「Report」→「ReportEditor」を選択し,以下のように設定すると入力電圧-雑音指数特性のグラフが表示されます(図18).
・Domain
: Sweep
・Output Type :
Rectangular Plot
・Function :
dB〔〕
・Response :
NF32<-H1+H1,H0+H1>
(それ以外はデフォルトのまま)
このグラフから,最適な入力バイアス(雑音指数が変化しなくなる入力電圧)
(13)変換利得のシミュレーション
最後に,変換利得を確認します.Nonlinear Circuit Analysisウィンドウの「Regular」と「Show
Bias Point」の項目をチェックし,[Analyze]ボタンを押して下さい.Bias
Point Valueウィンドウ(図19(a))が開いたら,そのまま[OK]ボタンを押して下さい.これによってシミュレーションが始まります.
しばらくするとシミュレーションが終わります.メニュー・バーの「Report」→「Report
Editor」を選択し,以下のように設定するとミキサ回路の変換利得(TG32)が表示されます(図19(b)).
・Domain
: Sweep
・Output Type :
Rectangular Plot
・Function :
dB〔〕
・Response :
TG32<H0+H1,H0+H1>
(それ以外はデフォルトのまま)
このグラフから,入力バイアスが0.75V以上のとき,変換利得は25dB以上であ